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東京高等裁判所 平成11年(ネ)2469号 判決 1999年8月18日

控訴人

株式会社岡永商店

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

清水正明

被控訴人

株式会社スキーム

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

平岩敬一

山本英二

松延成雄

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要と当事者の主張

一  事案の概要

本件は、控訴人による不動産競売停止仮処分申請により競売手続が停止され配当金の受領が遅れたとして、債権者(抵当権者)である訴外日電総合株式会社(訴外会社)の控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受けた被控訴人が控訴人に対しその支払を求めた事案である。原審係属中に被控訴人について代表者及び取締役の解任と新代表者及び取締役就任の登記がされ、新代表者の名により控訴人の同意の旨を付記した訴えの取下書が提出されたが、被控訴人の代表者らは右解任及び選任の決議がされたとする臨時株主総会は不存在又は無効であるとして別途株主総会を開催して右新役員を解任し旧役員を新たに役員に選任してその旨の登記をした上、右訴取下の効力を争った。原審は、被控訴人の主張どおり右訴取下を無効として、本訴請求を認容した。控訴人の控訴理由は、右訴取下を無効とする原審の判断を争うものである。

二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示中「第二 当事者の主張」欄(原判決書二丁表五行目から四丁表六行目まで)記載のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決書三丁表八行目の「別紙物件目録二及び三の」の次に「建物の」を加える。

2  原判決書三丁裏五行目から七行目まで((三)の項)を次のとおり改める。

「(三) 訴外会社は、本件仮処分がされたため、昭和六二年一二月一六日から平成九年(昭和七二年)四月二五日まで九年と一三一日間、右元金及び約定損害金合計九億三四三八万六三〇一円の配当受領が遅れ、この間の民法所定の年五分の割合による遅延損害金相当の四億三七二四万一五八九円の損害を被った。」

理由

一  本件訴えの取下の効力について

本件の原審二回口頭弁論期日の前日である平成一〇年六月二九日、被控訴人代表者C名義の控訴人の同意の旨を付記した取下書(以下「本件取下書」という。)が原審裁判所に提出されたことは記録上明らかである。

証拠(≪証拠省略≫)によれば、本件取下書に被控訴人代表者として記載されている「C」は、被控訴人の商業登記簿上平成一〇年五月一四日被控訴人の代表取締役に就任した旨同月一八日付けで登記され、右登記に係る申請書添付の臨時株主総会議事録には、出席株主がC外七名でしかも発行済株式総数を保有する全株主が出席して開かれたかのような記載があることが認められる。ところが、証拠(≪証拠省略≫)によれば、被控訴人会社の全株式は被控訴人代表者であるBが保有しているのに、同人は右臨時株主総会に関与していないことが認められる。また、証拠(≪証拠省略≫)及び弁論の全趣旨によれば、Bは被控訴人に対し株主総会決議不存在確認の訴え(東京地方裁判所・平成一〇年(ワ)第一二二九三号)を提起するとともに、Cらの新役員を解任し、改めてBら旧役員を役員に選任する株主総会を開催してその役員変更登記をし、平成一〇年六月三〇日右訴えを取り下げたが、その後右Cら解任された役員から右株主総会決議の効力を争う訴訟は提起されていないことが認められる。

右の事実によると、Bら旧役員を解任しCらを役員に選任した右株主総会は、開催された事実そのものが疑わしいが、少なくとも株主が出席することなく議決されたものであるから無効であることは明らかであり、Cを代表者としてされた本件取下書による本件訴えの取下は無効というべきである。

二  請求原因について

1  請求原因1(本件訴訟に至る経緯)については、当事者間に争いがない。

2  請求原因2(控訴人の不法行為責任)について

証拠(≪証拠省略≫)及び弁論の全趣旨によれば、本件仮処分は、控訴人の本件競売事件における被控訴人の抵当権が存在しないとの主張のもとにされたものであったが、本件本訴事件において右主張は排斥されて控訴人敗訴の判決が確定したものであることが認められる。そうすると、本件仮処分の申立ては、控訴人が申立てをすることについて相当な事由があったなどの特段の事情がない限り、控訴人に過失があったものと推定されるところ、右特段の事情があったものと認めるに足りる証拠はない。

したがって、控訴人が本件仮処分の申立てをしたことには過失があり、訴外会社に対する不法行為に該当するものというべきである。

3  請求原因3(訴外会社の損害)について

(一)  控訴人が訴外会社に対して賠償すべき損害は、本件競売事件が本件仮処分により停止されたことにより、訴外会社に対する配当が遅れたことによるもの、すなわち、配当として受領することができた金額に対するその遅延期間に対応する民法所定の年五分の割合による遅延損害金であると解すべきである。そして、右遅延期間としては、停止が解除された後の競売事件の進行状況をも勘案して、停止されなかったならば配当が受けられたと考えられる日を推定し、その日の翌日から手続再開後配当までに手続上必要と考えられる相当期間経過後の日までを対象とするのが相当である。

(二)  証拠(≪証拠省略≫)及び争いのない事実によれば、訴外会社の本件不動産についての抵当権の順位は第二順位ではあるが、先順位の抵当権の被担保債権は元本が一〇〇万円であること、本件競売事件においては、原判決別紙物件目録二及び三記載の建物の最低売却価額が合計一〇億五七一四万円と定められ、競売手続停止前に売却決定期日が昭和六二年一二月二三日と定められたこと、手続再開後の平成一〇年二月九日に売却許可決定がなされ、配当期日はその一三七日後である同年六月二六日と定められ同期日において配当が実施されたことが認められ、これらの事実に照らすと、本件競売事件が停止せずに進行していたものと仮定すれば、右各建物は少なくとも右最低売却価額で売却され、停止前の売却決定期日である昭和六二年一二月二三日から一三七日後の昭和六三年五月八日ころ配当期日が指定され、同期日において訴外会社は、少なくとも元金六億一〇〇〇万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和六一年八月一日から昭和六三年五月八日まで約定の年三割による遅延損害金の合計九億三四〇〇万円の配当を受けられたものと推定するのが相当である。ところが、昭和六二年一二月一六日に仮処分決定により競売手続が停止され、右推定される配当期日である昭和六三年五月八日に配当金を受領することができなくなったが、本件仮処分による配当金受領の遅延期間としては、右昭和六三年五月八日の翌日である同月九日から右本件本案事件の判決の確定により右停止が解けた日である平成九年四月二五日までの期間に、その後配当までに手続上必要な相当期間として前記のとおり売却決定期日から配当期日までに現実に要した一三七日を加えた同年九月九日までの期間をみるのが相当であり、訴外会社は右配当金額に対する同期間分の民事法定利率年五分の割合による金員相当額の損害を受けたこととなる。そうすると、訴外会社の被った損害は、右推定される配当金額九億三四〇〇万円についての昭和六三年五月九日から平成九年九月九日まで(九年と一二四日)の年五分の割合による遅延損害金である四億三六一六万五二〇五円となる。

4  請求原因4(債権譲渡)の事実については、証拠(≪証拠省略≫)によれば、これを認めることができる。

三  結論

以上によれば、右損害金の内金九五〇〇万円の支払を求める被控訴人の本件請求は理由があるからこれを認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒井史男 裁判官 大島崇志 河野泰義)

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